Q.知人の医師を医療法人の分院の院長とする場合、その医師を理事にしなければならないのでしょうか?

A.医療法人が開設する全ての病院、診療所又は介護老人保健施設の管理者(院長等)は、原則として理事に就任する必要があります。

1.理事の役割
医療法人の機関の一つである理事会を構成する役員を、理事と呼びます。最高意思決定機関は社員総会ですが、社員総会で決められた基本事項に基づき、より具体的に業務の執行内容が決められるのが理事会です。
理事は社員総会で選任され、理事会のメンバーとして経営に加わるものの、経理を担当する理事といった形で日常の業務に携わることが可能です。
医療法人が開設するあらゆる病院、診療所又は介護老人保健施設の管理者(院長等)は、原則として理事になる必要があります。医療施設において医療業務について実質的に責任を有している医師又は歯科医師といえる管理者の意向を、医療法人の運営に正しく活かすことにより、医療施設の経営を適正なものとすることを目的に、このように定められています。
ただし、医療法人の最高意思決定機関とされる社員総会において議決権や選挙権を持つのは、社員に限られています。理事には社員総会の議決権を与える必要はなく、理事を必ずしも社員にする必要もありません。
なお、理事には医療法人の意思決定に基づく事実上の職務執行の権限があるため、この権限の行使が可能な程度の能力を持っていなければなりません。未成年者も理事になることは不可能ではありませんが、事実上の職務執行の権限を行使できる程度の能力を持つか否かをじっくりと検討して判断する必要があります。

2.理事に就任することができない人
次に掲げる人は、理事に就任できないことになっています。
・監事
・成年被後見人
・被保佐人
・医療法、医師法、歯科医師法その他医事に関する法令の規定により罰金以上の刑に処せられて、刑の執行又は執行猶予期間が終了してから2年を経過していない人
・禁固以上の刑に処せられて、刑の執行又は執行猶予期間が終了していない人

3.知人を分院の院長兼理事とする際の留意点
本院との関係性が悪くなり、分院の院長が急に辞職するというようなトラブルが起こることがあります。その原因はさまざまですが、知人である医師に分院の院長に就任してもらう際に、管理者兼理事はどのような立場であるか、勤務条件はいかなるものか、法人としてどのような将来像を考えているか等に関して、しっかりと意思疎通を図っていなかったために、それからも分院長と信頼関係を十分に構築することができなかったというケースも見受けられます。
また、分院長に就任した後にコミュニケーションが十分でなく、本院と分院の各院長が考えていることやこれからしたいことに開きが出ることもあります。
多くのことが重なり、月日が経つにつれて、勤務条件に関する不満等によるトラブルが生じる場合がよくありますが、就任時のほかその後もコミュニケーションを取る時機を作ることで、このような状況にならないようにする必要があります。分院長が他人であればなおさら、信頼している知り合いなのでコミュニケーションを重視しなくても大丈夫と考えるのではなく、双方が納得できるようコミュニケーションを取ることを大切にするべきであるといえます。